デザイン

カヤックのモデルを選ぶ上での考慮すべき点

ツーリングカヤック:
新しくカヤックを選ぶ際、いくつかの基本的な点を考慮してください。使用目的、パドラーの体型、荷積み容量、直進性、安定性、長さ、幅、カヤックの総容量、フィット感、見た目、価格、保管場所、素材などです。それら全ての点を考慮すると、デザインなどは妥協できる部分だと理解できることでしょう。個々がカヤックに求めるものは多々あるでしょうが、最終的に残る一番の要因はパドラー本人です。どのようにカヤックを評価し選んでいくかは、難しいことでもありますが価値のある経験となるはずです。

もしあなたが初心者だとすると、最初は大きくて安定感のあるモデルを選びがちですが、大き過ぎるカヤックを楽しめる期間は、思った以上に短いはずです。いろいろなレッスンを受けて、自分の求めているカヤッキングスタイルを見つけて下さい。そうすると、自分が習うべきことはたくさんあることに気が付くはずです。しかし、カヤッキングというスポーツは自分が思っている以上に簡単だったり難しかったりすることも事実です。レンタルをしたり人のカヤックを借りたりして、いろいろなコンディションで多岐に渡るモデルを試す事をお勧めします。

使い方の目的:
カヤックにどのような目的を求めていますか?ワンデイツーリング、週末のツーリング、もしくは長期に渡る冒険でしょうか?カヤックに乗りながら釣りをしたり写真を撮ったり、バードウォッチングを楽しんだりしますか?いろいろな種類のツーリングをしたいのか、一つの目的に集中して選ぶのか?そのカヤックを使用するのはあなた自身だけですか?シングル艇、もしくはダブル艇ですか?

長さ:
喫水線の長さが、カヤックの潜在的なスピードを左右する主要な決め手となります。ツーリングカヤックの最大移動スピードは、1.34×喫水線の長さ(単位:フィート)のルート値と言われています。例えばこの方程式を使うと、全長16フィート(4.8m)のカヤックの最大移動スピードは5.36ノット《約10km/h》(√16×1.34)であり、25フィート(7.5m)は6.7ノット《約12.5km/h》(√25×1.34)という数値が出ます。同じ方程式に当てはめると、喫水線が14フィート(4.20m)のカヤックは5.01ノット《約9.2km/h》のスピードが出せることになります。しかし、実際には最大移動スピードの約半分もしくは2/3くらのスピードでしか漕ぐことはできません。理論上の最大スピードを出すには、カヤッカーの相当の努力が必要ということになります。ここで、カヤックの全長と正確な喫水線の長さの違いについて述べておきましょう。テルクワを例に挙げると、全長が5.6mのテルクワの喫水線は大体5.0mです。ほとんどのシーカヤックの喫水線は、大体3.65mから5.49mの間ですが、もっと現実的な数値にすると、4.57mから4.88mの間となります。

ビーム:
ビームとはカヤックの一番幅の広い部分のことを指します。幅が広ければ広い程安定感を得られます。しかし現実的には、カヤックの幅には限界があります。あまり幅が広すぎるとパドルが船体と干渉して漕ぎにくくなりますし、あまり細すぎると安定感に欠けて浮いているのも困難になるからです。カヤックが幅広になればなるほど、水面下の面積が広くなり摩擦が増大します。再度述べますが、長さと同様、実際のカヤックの幅は喫水線での幅とは異なります。

横断面の形:
いろいろな種類はありますが、基本的な横断面は2つに分けられます。丸みを帯びたソフトチャインと、とても角張ったハードチャインです。簡単に言えば、その形の違いはカヤックの乗り心地に影響します。ハードチャインはソフトチャインに比べて安定感をもたらしますが、ソフトチャインの丸みは接水面積が少ない分摩擦を減らす事ができます。ソフトチャインは、22-23インチ(55.8-58.4cm)以上の幅広のカヤックに最も効果的であると考えられています。しかし、このソフトチャインを細身のパフォーマンスカヤックに採用することにより、技術的に優れたパドラーであれば安定性を欠いてもスピードを出す事ができるでしょう。22インチ(55.8cm)以下のツーリングモデルには、ハードチャインのハルを採用する事で安定性を高めてツーリングカヤックとしての可能性を広げます。

ハードチャイン
ソフトチャイン

直進性とロッカー:
ロッカーは、ハルの中心部から両端までのハルの反りであるカーブのことを指します。実際には、ほぼ全てのカヤックにロッカーがついており、カヤックの潜在的なスピードを上げる為には、このロッカーの大きさが左右することになります。ロッカーが大きくなればなるほど、カヤックはターンしやすくなりますが、同じロッカーの大きさであってもカヤックのモデルの違いで反応は変わってきます。例えば、カヤックの中心部が直線的で両端だけ反り上がっている形と全体的に流線型を描いているロッカーとでは違いますし、また片方の先端のロッカーが小さくもう片方が大きいような場合も違います。このような違いを穏やかな水面で体感し評価するのは難しいですが、荒れたコンディション時には違いが顕著に表れます。また、カヤックをリーン(傾ける)させることでロッカーを大きくする事ができ、カヤックのエッジを90度に傾けた時にロッカーは最大となります。これはいくつかのホワイトウォーターカヤックには当てはまりませんが、ほとんどの場合はこの通りです。リーンをすると、カヤックの両先端が水面から出るので、ロッカーが大きくなり回転しやすくなります。このテクニックは、波の上で鋭敏なターンをするときにとても効果的です。またカヤックは、リーンしただけで応力が加わります。リーンをすると、ロッカーにより水面下に入るハルの形が変わり、リーンと反対の方向に円弧が作られるからです。極端に直進性の良いカヤックは、行きたい方向にカヤックを向けさせるのが妨げられる為、荒れた海での操作性は良いとは言えません。同様に、ロッカーが大き過ぎても直進性が欠けてしまう分、方向操作は難しくなります。この極端な例としては、とても短いホワイトウォーターカヤックであれば操作性も良いですが、荒れた状態ではスピードが遅くなります。ロッカーの影響は、ラダーやスケッグによって調整することが可能です。

表面積:
実際に水面下に入っているハルの表面積のことです。ハルを細くもしくは丸みを付ける事で、この表面積を縮小する事ができます。極端に小さくしようとすると、カヤック本体が座れないくらいとても細身になり、パドリングをするのにもとても不安定になります。

ボリューム(総容積):
カヤックはデザインにより、サイズ、長さ、幅の数値や船体の形がいろいろあり混乱してしまいがちですが、それぞれを比較する時の単位として積載容量があります。総容積は、ギアなどを運べる容量を示すかなり正確な数字です。しかし、そのスペースがどのように配置されているかによって、本当に積み込める容量は変わってきます。例えば、両端の細いカヤックでコックピットのスペースだけが広いカヤックの場合、全てのスペースが同等に仕切られているカヤックより荷物を積める許容範囲は少なくなります。従って、先端の細いモデルよりスペースのあるカヤックの方がたくさん積み込めます。

フィッティング:
人の体型に個人差があるように、カヤックへのフィット感には個人差があります。フィット感があるということは、どれだけコントロールがしやすいかということにつながります。両足、両膝と太腿、そしてお尻で自分自身をカヤックの中に固定出来るようにしましょう。ブレイスを入れたりロールをする時に、コックピットの中で体が横滑りしない事が重要ですが、窮屈すぎるのも長時間のパドリングでは疲れてしまいます。快適なフィット感を得るには、背もたれや補強材を追加してもいいでしょう。ほとんどのモデルでそのような装備をあつらえたり、パッドを追加したりしてフィット感を作り出すことは簡単ですが、緩くすることはとても難しくなります。自艇でしっかりとしたフィット感を得る為には、時間をかけて調整をすることをお勧めします。きっとかなり長い時間を費やす事になると思いますが、それがフィット感につながるのであればいいですよね?

市場の可能性:
今までたくさんの製造業者がどのようにカヤックを販売するかを見てきました。現在このカヤック産業の規模は大きくなり、大きな企業が成長してきています。その結果、北アメリカではカヤックの製造マーケットの80%をたったの3社が支配しています。そして、より良いカヤックを製造するよりも、興奮するようなマーケットを生み出し誇大広告で売り込む努力をしています。デザイナーであり製造者である私は、この産業環境の変化に、衝撃を受け不安にかられています。なぜなら昔は企業間に秘密などほとんどなく、共に道を歩んでいました。しかし現在は比較的大きな企業がもっとたくさんのマーケットシェアを得ようと他の企業と戦っているだけなのです。おもしろいことに、個人的な規模で営業している私達は未だに仲良くビジネスをしています。